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東京高等裁判所 平成4年(行コ)10号 判決

控訴人

齊藤明

齊藤達夫

齊藤範枝

齊藤明嗣

右四名訴訟代理人弁護士

土生照子

被控訴人

東戸塚品濃中央土地区画整理組合

右代表者清算人

長谷川昭一

右訴訟代理人弁護士

北川豊

宇都宮龍一

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

控訴人ら代理人は、「被控訴人が控訴人らに対し、横浜市戸塚区品濃町字西ノ谷六三二番田三二〇平方メートルについて昭和五七年四月二六日付けでした換地処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

第二  事案の概要

原判決事実及び理由の第二記載のとおりである(ただし、原判決二枚目裏五行目の「西ノ谷」を「字西ノ谷」に改め、同三枚目表五行目の「原告らを代表し」及び同裏六行目の「(乙二)」を削り、同四枚目表四行目の「別紙物件目録記載の土地」を「横浜市戸塚区品濃町五一六番一田三九六平方メートル」と改め、同一〇枚目裏三行目の「あり、」の次に「南西の」を加える。)から、これを引用する。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲四の5、一七、一八、乙一ないし三、一九、原審証人福原弘、同白木原俊介、同大脇光二、原審における控訴人明、同齊藤達夫各本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められ、控訴人明及び同齊藤達夫の供述中この認定に反する部分は採用できない。

(一) 控訴人明は同齊藤達夫の実父、同齊藤範枝及び同齊藤明嗣は同達夫の妻子であるが、控訴人明は、昭和五六年三月ごろ、懇意な関係にあった新一開発の代表取締役福原政二郎(以下「福原社長」という。)から、控訴人らが指定を受けた仮換地Aの属する三四街区は都市計画法上の特定街区に指定される見込みであり、そうなると仮換地Aに建物を建てるについては特定街区であることによる諸制約を受けることになる旨を告げられ、控訴人明は右のような制約を嫌い、福原社長に対し仮換地Aを右のような制約のない土地と交換してほしいとの申出をした。そこで、福原社長は、同月一八日新一開発の事務所において、新一開発の取締役であり被控訴人の理事をも兼ねていた福原弘と共に、右交換の目的地として三三街区の東南角の土地部分三九六平方メートル(以下「丙地」という。)を推薦した。控訴人明は、自分としてはその土地でよいと思うが、家族であるその余の控訴人らとも相談して明日最終的な返事をする旨を述べ、丙地の位置が記入された図面を持ち帰った。

(二) 控訴人明は翌一九日に新一開発の事務所を訪ね、福原社長及び福原弘に対し、丙地は目立つ場所にあるのでこれより静かな場所がよいとの理由で、丙地ではなく三三街区の南西角の部分を仮換地Aと交換する土地として希望した。福原社長は控訴人明の希望に従い仮換地Aと三三街区の南西角の部分との交換に応ずることとしたが、右土地部分について新一開発は株式会社熊谷組との間で売買の予約をしていたため右の交換をするについては同会社の承諾を取り付ける必要があったことから、同会社横浜支店の白木俊介を右事務所に呼び、同会社としても右交換を承諾するように伝えた。

そして、福原社長は福原弘に対し、右交換について承認を受けるため被控訴人に対し提出すべき書面を控訴人らの分も作成するよう指示し、福原弘は、右指示に従い、新一開発の換地関係事務の担当者である大脇光二に命じて三三街区の南西角部分三九六平方メートルの土地部分(甲地)を特定する図面(乙二添付の図面)を作図させた。控訴人明は、完成した図面を確認した上、右図面の添付された被控訴人あての仮換地交換願い書(乙二)に署名押印した。

(三) 控訴人明はその余の控訴人らの同意を得て、その余の控訴人らを代理して新一開発との間で本件仮換地交換の合意をし、かつ、被控訴人に対し仮換地交換願い書を提出したものである。

2  控訴人らは、本件仮換地交換の合意は仮換地Aと乙地とを交換するという内容であった旨主張し、原審における控訴人明及び同齊藤達夫各本人の供述中には右主張に沿う部分があるが、右供述部分は次の(一)、(二)のところからして採用することができず、また、甲第一九号証、第二〇号証の一によっては右主張事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(一) 甲第一八号証には、新一開発との間で交換する土地としていったん決定した土地をその後に別の位置の土地に改めたことをうかがわせる内容の控訴人明自身によるメモの記載があることが認められるが、その点に関し控訴人明は、原審における本人尋問において、福原社長との間では当初から仮換地Aと交換する土地は乙地とすることで合意が成立していたが、新一開発の担当者の大脇光二が右合意の内容を書面にするために作成していた図面をのぞいたところ、同人が作図していた土地の場所が乙地と違っていたので同人にその旨を指摘して訂正させたことがあり、その際同人からもらって帰った図面が甲第一七号証であり、同第一八号証中の右の記載はその経過をメモとして残したものである旨供述する。しかし、原審証人大脇光二は控訴人明から右のような指摘をされた事実はなかった旨供述するのみならず、控訴人明が供述するように福原社長との間で当初から交換の目的地を乙地とする旨の合意が成立していたというのであれば、新一開発の事務上の担当者にすぎない大脇光二の作図上の誤りを指摘して訂正させたことについて殊更控訴人明が右のような内容のメモを残すというようなことは何の意味も持たないことであって極めて不自然であるというべきであり、また乙地の記載されていない誤った内容のものであるという図面(甲一七)をわざわざ大脇からもらって保管しておくということも全く無意味なことであって、控訴人明の右供述は到底採用できない。

(二) また、証拠(乙一八ないし二〇、原審証人福原弘)によれば、被控訴人は控訴人明と新一開発が本件仮換地交換の合意をした後の昭和五六年七月一二日に第一八回総会を開催し、右総会には控訴人明も出席したこと、その会場には組合員各自に対する換地の位置を知ることができるように大型の地図が掲示され、被控訴人の担当者が右地図を使用して当日の議案についての説明をしたが、右地図には控訴人らに対する換地として甲地が表示されていたことが認められる。そして、そのような場合、控訴人明にとって控訴人らに対する換地が果たして正しく表示されているかどうかということは最大の関心事であったはずであるから、同控訴人は当然右地図について控訴人らに対する換地がどのように表示されているかも確認し、控訴人らに対する換地が甲地となっていることを知ったものと認められるのに、原審証人福原弘の証言によれば控訴人明はその際被控訴人ないし新一開発に対し換地の位置が交換の合意の内容と異なるというような異議の申出を全くしていないことが認められ、この点からしても控訴人らの前記仮換地交換の合意の対象となっていたのは乙地である旨の供述は採用しがたいものというべきである。

3  さらに、控訴人らは、本件仮換地交換の合意の後新一開発は控訴人明に対し駐車場料金を支払っているが、新一開発経営の駐車場として使用されていたのは乙地のある駅前広場側であり甲地のある南側ではなかったから、この事実からしても本件仮換地交換の合意は乙地について成立したものである旨主張する。そして、証拠(甲一一の2、3、原審証人福原弘、原審における控訴人明本人)によれば、新一開発は昭和五六年四月から控訴人明に対し三三街区内の新一開発経営の駐車場用地についての賃料として月額六万円を支払っていることが認められ、原審における控訴人明及び同齊藤達夫各本人の供述中には、右駐車場の位置について甲地部分を含まないとする部分があるが、右各供述部分は原審証人福原弘の証言に照らしにわかに採用することができず、他に右駐車場の位置が甲地以外の部分であることを認めるに足りる証拠はない。

4 以上によれば、本件仮換地交換の合意は、仮換地Aと甲地とを交換することを内容として成立したものというべきであり、かつ、右合意について控訴人明には控訴人ら主張のような錯誤はなかったものというべきである。

二  争点2について

被控訴人は、控訴人らから本件仮換地交換の合意に基づき仮換地Aと甲地との交換の承認を求める仮換地交換願い書(乙二)が提出され、新一開発からも同旨の内容の書面(乙三)が提出されたため、右各書面の趣旨に従い本件処分をしたものである。

土地区画整理事業の換地計画において換地を定めるにあたり、施行区域内の特定の数筆の土地につき所有権その他の権利を有する者全員が他の土地の換地に影響を及ぼさない限度内において右数筆の土地に対する換地の位置、範囲に関する合意をし、右合意による換地を求める旨を申し出たときは、事業施行者は、公益に反せず事業施行上支障を生じないかぎり、土地区画整理法八九条一項所定の基準(照応原則)によることなく右合意されたところに従って右各土地の換地を定めることができるものと解すべきである。そして、控訴人らと新一開発は、被控訴人に対し前記仮換地Aと甲地との交換をする旨の合意の趣旨に沿った換地処分を求める旨を申し出たものであり、右申出の趣旨に従って被控訴人がした本件処分には公益に反し又は事業施行上支障を生じたことをうかがわせる事情は何ら認められないから、本件処分は土地区画整理法八九条一項所定の基準に適合しているか否かにつき検討するまでもなく、適法なものというべきである。

三  以上の次第で、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官菊池信男 裁判官伊藤剛 裁判官大谷禎男)

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